フランス語の原文を参照出来るようになってから、FWDさんを始め、複数の方々と検討する機会がありました。
そして各種翻訳と比較すると、いろいろと興味深い事が発見されてきました。
備考は大修館の辞書で見てみました。
ロザリーの持ち物の翻訳でその端緒をどうぞ
En Famille | Nobody's Girl | The Adventures of Perrine | 津田 穣 訳 | 二宮フサ訳 | 備考 |
un sifflet fait dans une noisette | a whistle made from a nut | a whistle made out of a hazelnut | 榛で作った笛 | ハシバミで作った笛 | 「呼び子」、ピーとか単音でなる小さな笛のようです。「口笛」という語義が先に来てます。 |
des osselets | some bones | :- | 小骨 | おはじき | 「小骨」という語義が先ですが 「羊の趾(し)骨を用いる一種のお手玉」 というのもあります。 |
un dé | a thimble | a thimble | 骰子 | さいころ | 確かに、「さいころ」も有りますが、「指ぬき」というのもありますね。ドミノの札というのもあります。 昭和9年の白泉社の辞書には「指ぬき(裁縫用)」が最初でサイコロはその次です。 déはÉtui de métal. 金属で出来た入れ物(覆い) |
un morceau de jus de réglisse | a stick of liquorice | a stick of licorice | 葡萄酒壜のかけら | かんぞう飴 | morceau 「一口分の食物」 jus 「ジュース」 reglisse 「甘草」 jus de reglisse 「甘草汁(かんぞう汁)」 白泉社では jus de reglisse が 「アルト・パスト」という薬と書いてあります。 morceau 食品の一切れ分 |
trois sous | three cents | three pennies | 三銭 | 三スー | |
un petit miroir en zinc | a little mirror | a small metal mirror | 亜鉛の小さな鏡 | 小さな亜鉛の鏡 |
サイコロというのはお二人ともそう訳していますが、英語は指ぬきと訳しています。
どこで、葡萄酒びんのかけら、というのが出てきたのか不明です。確かに、色は似ていそうですが...。
参考までに完訳本でない本の場合
偉大な文学者、菊池寛氏のではロザリーのポケットは完璧です。
「ロザリは、云はれた通りにいろんなものをポケツトから出しました。胡桃殻でこしらへた笛、指輪、甘草の棒、お金三セント、小さな鏡、タルウエルは、直ぐ鏡を取り上げました。」
しかし、文学者 西条八十氏は津田訳や菊池訳などを適当に読んで、原典に当たっていないことを暴露します。
「くるみのふえ、さいころ、ぶどう酒びんのかけら、お金が三スー、それからすずでできた小さなかがみ。」
真っ当に訳出していれば、津田訳と同じ誤訳「さいころ、ぶどう酒びんのかけら、」とは絶対にならないです。
ZINCを錫と訳出しているのも面白いですね。
少女小説作家 水島あやめ氏は、持ち物は女の子らしい持ち物へと創作がなされています。
「ちいさながまぐち、おもちゃのふえ、ゆびわ、ちり紙、小さな鏡・・・」
それぞれ工夫がありますが、
小さな笛、おはじき、指ぬき、キャンディ、3スー、亜鉛で出来た鏡
と翻訳するなら13歳の当時の女の子の持ち物として妥当ではないでしょうか。